蒼いクリスマスツリー
連載: 恋愛小説です
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2. 知られざる過去
   月川との出会いは私が東京の大学に進み、アルバイトを始めたばかりの1980年代だった。 田舎の高校から、憧れていた東京の大学に入った。 同時に合格していた地元の大学に行けという両親の反対を押し切って上京した私は、公務員の父一人の給料から学費、生活費を仕送りしてもらうには少々心が痛んだ。 家庭教師や喫茶店のアルバイトには全く魅力を感じなかった。 とあるアルバイト情報誌で見つけたのが、ケイエス・プランニングという会社だった。 ウエディングからファッションショー、移動遊園地まで、幅広くこなすこの会社は元演劇部の私にとっては格好の働き場所だった。そこで私はアシスタントという肩書きの、イベントプランニングの見習い兼雑用の仕事をもらった。 正規のプランナーは4人、月川は実際のイベントで現場を仕切る監督だった。 現場でのアシスタントは自給が少し高かったせいで、私は現場の仕事も好んで引き受けた。 ・・・と言っても、客の整理とか、お弁当の配布、機材の搬入・撤去の手伝い等、本当に雑用が多かったけれど。 この現場好き(?)が功を奏して、私は月川と現場に出ることが多かった。 
   現場第一回目の仕事は、横浜市内での結婚式だった。 お洒落なレストランを貸切で、音響・照明を搬入し、白と黄色を基調としたデコレーションを組み立て、ウエディングケーキも白地に黄色のお菓子のバラが溢れていた。 月川はインカムを使って私達アルバイトに指示を出し、同じく会社から派遣された司会の女性とともに結婚式を進行させて行く。 教会で式を挙げた後、“今日一日はずっと純白のウエディングドレスを着ていたい”という新婦の意向で、お色直しに時間を費やす必要のない披露宴は、とてもスムーズに進んで行った。
   私、谷口綾乃は、まだ19歳。 まだ、結婚願望が薄れてはいない、普通の年頃の女の子だった。 披露宴の最後に花束贈呈で涙ぐむ新婦とその両親を見ながら、いつかそう遠くない未来に訪れるかもしれない自分の結婚式を想像していた。 海の見える教会で、春の風を感じながら行われる結婚式。 シンプルな白いドレスに、胡蝶蘭のブーケ、隣で微笑む愛する人、両親や友達。 私もお色直しは要らないな。 一生に一度の幸せな旅立ちの日には、できるだけ長くウエディングドレスを身にまとっていたい。 披露宴では、必ず双方の両親を末席ではなく貴賓席に・・・だって、一番感謝して、一番私の幸せな姿を見せてあげたいのは両親だもん。
   「谷口さん、お疲れ様。 機材の撤去は明日だから、軽く片付けをしたら帰ろう。 都内まで送ります。」 心地よい夢の中に入ってきたのは月川だった。 既に披露宴は終わり、新郎新婦はレストランの出口で来賓を見送っていた。 2次会に出席する司会の女性を残して、私は月川と会社の車で、都内の本社に向かった。 
「初めての現場はどうでした?」
運転しながら月川が話しかけてきた。 運転中は、居眠り運転防止のためにできるだけ話しをして欲しいと、行きの車の中で言われていた。 
「楽しかったです。 結婚式って、いつ見ても良いですね。 最後は私もつられて泣きそうでした。」
「そう・・・。」
月川の疲れた顔が一瞬曇ったような気がした。
「結婚式の現場は、僕はあまり気が進まないんだ。」
数秒の沈黙の後、月川は続けた。
「実は去年、6年間付き合っていたフィアンセと別れたんです。 結婚式の2週間前に。」
私は、月川の突然の告白に、返す言葉を失っていた。
「あ、気にしないで、会社の人たちは皆知っているから。結婚式の招待状は会社の人たち皆に配ってあったからね。」
「大変でしたね。」
私はそう言うのが精一杯だった。結婚式直前の婚約解消なんて、漫画か小説の世界だけの話だと思っていた。 黙っている私に、月川はさらに話し続けた。
「僕は彼女の実家で既に一緒に暮らしていたから、引越しとか色々大変でね、時間はあっという間に過ぎてくれたお陰で、今はなんとか落ち着いたという感じかな。」
月川は婚約解消後、フィアンセの実家を出て、結婚後に一緒に暮らすはずだった、近くのマンションに引っ越したこと、半年過ぎた今でも、まだ、傷が癒えてはいないこと、そして、結婚式の現場はできれば避けたかったこと等を私に話した。 どうして突然、初対面の私にそんな大変な自分の過去を話したのか・・・、話してくれたのか・・・、その時はどうしても月川が理解できなかった。 月川はまっすぐ前を向いて運転を続けていた。 寂しげな、心なしか潤んでみえた月川の眼差しの横顔が、この時、私の瞳に焼きついた。

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