月川の優しい手が愛情に満ちた手になって私に触れるようになったのは、いつの頃からだったろう。 初めて私が司会をしたあの日が始まりだった? いや、あの時の月川はただ緊張していた若いアルバイトを励ましただけだった。 そして、私が月川の手を“魔法の手”と言ったから、あの現場の後も、月川は同じように私の頭を撫でてくれたのだ。
唯一つ、変わったことといえば、きっと私が月川を異性として意識し始めたことだろう。 月川との現場が楽しくなり、もっと一緒に仕事をしたくなり、そして、気がつくといつも私の視線は月川を探していた。 勿論、私は自分から告白するなどという積極性は持ち合わせていなかったから、ただ月川を100%完璧にサポートすることで愛情を表現するしかなかった。 そして、私のこの行為は、ケイエス・プランニングでの私の仕事の評価を高めていき、大学卒業後の就職を打診されるに至ったのである。
確かにケイエス・プランニングのようなイベント大手の会社から、それもまだ学生のうちに卒業後の就職をオファーされるのは嬉しかった。 でも、何より嬉しかったのは、これから先もずっと月川の傍にいられるということだった。 たとえ仕事上の上司と部下、もしくは同僚という関係でもいい、月川をずっと見ていたかった。 あの時の私は、もし、月川が他の女性を選んで結婚してしまったら・・・等ということはさらさら思いもしなかった。 今になって考えれば、月川は当時28歳、当時の男性の結婚適齢期になっていたのだ。
「お前、いつまでも終わった恋愛のこと考えてないで、次をみつけろよ。」
月川の性格をなんだかんだ言いながらも、結局は月川の仕事を認め、部下としてかわいがっていた桑田専務はよく月川の将来を心配してこう言った。
「いいんですよ、女はもうしばらくいいです。」
飲むとよく絡む桑田専務を月川はいつもこうかわしていた。めったには無い飲み会の席で、ウーロン茶を片手に静かに月川の横に座っていた私は、この月川の台詞に、月川にまだ誰も他に意中の相手がいないことを確認し、安堵したものだった。
そんな私の表情を見逃さなかった、営業部長の勝田はよく私をからかった。
「谷口、お前、しょうがないから月川のプライベートも面倒みてやれよ。 仕事だけじゃなくてさぁ。」
勝田は酒の席でふざけながらこう言った。 でも、勝田の目は実は真剣だった。
「お前ぐらいしかいないだろう、谷口、変態月川の傍にいてずっと一緒に仕事していられるのはさぁ・・・。」
「何、言ってるんですか、勝田さん。 仕事で面倒見てもらってるのは私のほうですよ。」
私はさりげなく勝田をかわした。 でも、この勝田が実は、私と月川を結びつけたキューピットだった。
車内放送がなり響いた。
「お客様で、谷口様。 谷口綾乃様、おいでになりましたら8号車車掌室までお越しください。」
嫌な予感が私を襲った。 あわてて立ち上がり、私は車掌室へ向かった。 上野駅まではあと数十分だった。
「谷口です。」
車掌室に着くと、車掌は私に車内電話を差し出した。
「お電話が入っています。」
恐る恐る電話にでると、勝田の声が聞こえてきた。 上野までの最後の山道を走っていたせいで、電話の電波状況は最悪だった。
「谷口・・・・・・・・・もうすぐ着く・・・・・・・いいか、上野駅からタクシーを使え。 道路はそんなに混んでい・・・・ない。」
途切れ途切れの勝田の声。 私は震えた声で聞いた。
「勝田さん、月川さんは? 月川さんは大丈夫なんですか? 今どんな・・・・・。」
ここで勝田との電話は完全に途切れた。
「すみません、トンネルに入ったようです。」
私は車掌に礼を言うと、デッキに出た。 自分の席まで戻る気力はなかった。 どうせあと数十分、ここで待とう。 そしてドアが開いたら一目散にタクシー乗り場まで駆け抜けよう。
唯一つ、変わったことといえば、きっと私が月川を異性として意識し始めたことだろう。 月川との現場が楽しくなり、もっと一緒に仕事をしたくなり、そして、気がつくといつも私の視線は月川を探していた。 勿論、私は自分から告白するなどという積極性は持ち合わせていなかったから、ただ月川を100%完璧にサポートすることで愛情を表現するしかなかった。 そして、私のこの行為は、ケイエス・プランニングでの私の仕事の評価を高めていき、大学卒業後の就職を打診されるに至ったのである。
確かにケイエス・プランニングのようなイベント大手の会社から、それもまだ学生のうちに卒業後の就職をオファーされるのは嬉しかった。 でも、何より嬉しかったのは、これから先もずっと月川の傍にいられるということだった。 たとえ仕事上の上司と部下、もしくは同僚という関係でもいい、月川をずっと見ていたかった。 あの時の私は、もし、月川が他の女性を選んで結婚してしまったら・・・等ということはさらさら思いもしなかった。 今になって考えれば、月川は当時28歳、当時の男性の結婚適齢期になっていたのだ。
「お前、いつまでも終わった恋愛のこと考えてないで、次をみつけろよ。」
月川の性格をなんだかんだ言いながらも、結局は月川の仕事を認め、部下としてかわいがっていた桑田専務はよく月川の将来を心配してこう言った。
「いいんですよ、女はもうしばらくいいです。」
飲むとよく絡む桑田専務を月川はいつもこうかわしていた。めったには無い飲み会の席で、ウーロン茶を片手に静かに月川の横に座っていた私は、この月川の台詞に、月川にまだ誰も他に意中の相手がいないことを確認し、安堵したものだった。
そんな私の表情を見逃さなかった、営業部長の勝田はよく私をからかった。
「谷口、お前、しょうがないから月川のプライベートも面倒みてやれよ。 仕事だけじゃなくてさぁ。」
勝田は酒の席でふざけながらこう言った。 でも、勝田の目は実は真剣だった。
「お前ぐらいしかいないだろう、谷口、変態月川の傍にいてずっと一緒に仕事していられるのはさぁ・・・。」
「何、言ってるんですか、勝田さん。 仕事で面倒見てもらってるのは私のほうですよ。」
私はさりげなく勝田をかわした。 でも、この勝田が実は、私と月川を結びつけたキューピットだった。
車内放送がなり響いた。
「お客様で、谷口様。 谷口綾乃様、おいでになりましたら8号車車掌室までお越しください。」
嫌な予感が私を襲った。 あわてて立ち上がり、私は車掌室へ向かった。 上野駅まではあと数十分だった。
「谷口です。」
車掌室に着くと、車掌は私に車内電話を差し出した。
「お電話が入っています。」
恐る恐る電話にでると、勝田の声が聞こえてきた。 上野までの最後の山道を走っていたせいで、電話の電波状況は最悪だった。
「谷口・・・・・・・・・もうすぐ着く・・・・・・・いいか、上野駅からタクシーを使え。 道路はそんなに混んでい・・・・ない。」
途切れ途切れの勝田の声。 私は震えた声で聞いた。
「勝田さん、月川さんは? 月川さんは大丈夫なんですか? 今どんな・・・・・。」
ここで勝田との電話は完全に途切れた。
「すみません、トンネルに入ったようです。」
私は車掌に礼を言うと、デッキに出た。 自分の席まで戻る気力はなかった。 どうせあと数十分、ここで待とう。 そしてドアが開いたら一目散にタクシー乗り場まで駆け抜けよう。
TRACK BACK
TB*URL
| ホーム |


